新料金プランは「値下げ」か「値上げ」か
携帯電話各社が「バリュープラン」などと銘打った新しい料金プランを次々に発表しています。データ通信や通話、各種サブスクリプションサービス、そして自社ポイント経済圏との連携など、盛りだくさんの内容です。しかし実際の中身を見てみると、それは値下げではなく“実質的な値上げ”だと見る向きが多くあります。無料期間付きのサブスクの自動更新や、使いもしないオプションが初期設定で付いてくる構造など、ユーザーにとって分かりにくい仕掛けが含まれていることも少なくありません。
企業側が「付加価値を高めた」と主張するこれらのプランは、本当にすべてのユーザーにとって“バリュー”なのでしょうか。
ブランドとプランの現状と浮かび上がる構造的問題
格安ブランドの登場と、料金多様化の現状
大手通信キャリア(NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク)の3社は、従来の主力ブランドとは別に、格安ブランドを展開しています。
- ドコモ:ahamo / irumo
- au:povo / UQ mobile
- ソフトバンク:LINEMO / Y!mobile
これらの格安ブランドは主にオンライン契約専用で、サポートを簡略化し、その分価格を抑えた設計です。20〜40代の若年・中堅世代を中心に、これらの格安プランを活用することで、月額1,000〜3,000円台での運用が可能となっています。
一方で、従来のブランド(ドコモ、au、ソフトバンク)は、月額7,000円〜10,000円以上となるプランも珍しくなく、格安ブランドと比較すると“倍以上”の価格差が生じています。
どうして高額プランが残り続けるのか
格安ブランドで通信コストを下げられる時代に、なぜいまだに高額な従来ブランドのプランが残っているのでしょうか。理由の一つは「サポート」です。店舗での対面契約、電話での相談、紙の請求書など、デジタルに不慣れな人向けのサポート体制を維持するには、人手もコストもかかります。
しかしもう一つ見逃せないのが、「契約変更が面倒」という利用者心理です。特に高齢者層に多いのが、長年使ってきたブランドへの信頼や、契約変更に対する漠然とした不安。「よくわからないけど、今のままでいいか」という“惰性”が、実はキャリアにとっての安定収入源になっているのです。
従来ブランドを選ぶ層:誰がなぜ選び続けているのか
各種調査によれば、従来ブランドを利用しているのは、50代以上の中高年・シニア層が多くを占めています。店舗でのサポートが受けられる安心感、家族割・セット割などの制度、キャリアメールの維持などがその理由として挙げられます。
また、スマートフォン自体は使っていても、その主な用途はLINE、通話、検索程度で、月に20GB以上の通信容量を使うようなケースは少ないのが実情です。にもかかわらず、「使い放題+オプション多数」の高額プランを契約し続けているのです。
「付加価値」の正体:サブスクと経済圏への囲い込み
近年の従来プランは、「動画サービス○ヶ月無料」「音楽ストリーミング付き」「○○ポイント還元」など、サブスクリプションサービスを組み込んだ複合プランが多くなっています。
これは、単なる通信サービスではなく、楽天・ドコモ・au・PayPayなどの自社経済圏にユーザーを取り込み、長期的な囲い込みを狙うものです。一定層にとっては、生活全体でそのサービスを活用できるため、確かにお得感があります。
しかし、問題はこうしたサービスが実際の利用者層に本当に必要なのかという点です。音楽や動画をほとんど視聴しない人にとって、これらの付加サービスは不要ですし、付けていなくても料金が大きく下がるわけではないケースもあります。
ユーザーの行動変容と、業界の本音
理想を言えば、あまりスマホを使わない非アクティブ層は、シンプルな格安プランへ移行することで、家計の支出を大幅に削減できます。実際にMVNOやオンライン専用プランを上手に活用している人は、そうした恩恵を受けています。
しかし、もし高齢者を含む非アクティブ層の大多数が最適なプランへ乗り換えてしまったら、どうなるでしょうか?
キャリア各社にとっては、今まで支えてきた高収益層が一気に減ることを意味します。結果として、ARPU(ユーザー1人あたりの平均収益)が大幅に下がり、事業維持のためには全体的な料金の見直し=実質的な値上げに舵を切らざるを得なくなるでしょう。
そうなると、今格安プランを活用しているユーザーも、将来的には値上げの波に巻き込まれていくかもしれません。つまり、現在の格安料金は、情報弱者に支えられている側面があるという構造的な問題が浮かび上がってくるのです。
企業努力と倫理のはざまで
携帯電話会社がさまざまな顧客ニーズに対応しようとすること自体は、企業努力として評価されるべきです。通信インフラの整備、ポイント連携、サービスの拡充など、全体の利便性が上がってきたのは間違いありません。
しかし、「情報の非対称性(企業の方が圧倒的に詳しい)」を利用し、不慣れな層に不要なサービスを押しつけるようなビジネスモデルには、倫理的な問題がつきまといます。
私たち利用者も、自分にとって本当に必要なサービスは何かを見極める視点をもち、場合によっては家族や周囲のサポートを借りながら契約を見直すことが大切です。そして社会全体としても、誰もが自分に合ったサービスを選べる、わかりやすい情報提供とサポート体制の整備を求めていく必要があるのではないでしょうか。
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