どうするどうなる米の価格2

世情

 前回の記事は、本当は5月23日に執筆を始めていたんです。おおかた書き終わったけれど、見直ししていないしアイキャッチ画像も作っていないしというところで23時ごろになっていたので、24日にアップしたのでした。あれこれ調べていたつもりだったのですが、足りていなくて訂正した部分がいくつかあります。

 さて、今日は「どうする」編です。

価格が「見えない」社会の不安

なぜ米価は分かりづらいのか?

 前編でも触れた通り、今の日本の米価はJA(農協)と卸業者などの「相対取引」によって決まっています。これは、お互いの顔が見える一対一の交渉で値段が決まるやり方です。
 一見すると、地元農家や生産者にとって「安心感」がある取引ですが、消費者や市場全体から見ると、「どんな値段で、どれだけ取引されたのか」が分かりづらいという弱点を抱えています。

 現実として、政府が公表しているのは「過去の平均取引価格」や「集荷量」などの断片的なデータ。
 例えば「全国平均で玄米60kgあたりいくら」という数字は出ても、それがどうやって決まったのか、どれくらいの数量がその値段で流通したのか、詳細はなかなか見えてきません。

 この「見えなさ」が不安を生むのです。
 2024年の米騒動でも、「本当に米が足りないのか」「誰かが買い占めているのでは?」といった憶測が飛び交いました。実態がよく分からないからこそ、心理的なパニックや買いだめが起きやすくなります。

JA・政府・業者の“調整”がもたらす影

 JAや農政当局、そして大規模な卸売業者には、「価格をなるべく安定させたい」「生産者の収入を守りたい」という正当な動機があります。
 しかし、こうした関係者の“善意による調整”が積み重なることで、市場本来の価格形成メカニズムから遠ざかってしまうという側面も出てきます。

 本当に米が不足していたのか、それとも“価格を下げない”ための調整だったのか――。
 消費者や小規模な実需者にとっては、「自分たちの知らないところで価格が決まっている」という感覚が残り、どうしても不信や戸惑いにつながってしまいます。

価格を「見える化」する――市場の再構築

相対取引から「市場価格」へ――透明性の価値

 そもそも価格は「需給バランス」――つまり作る人と買う人が納得できるポイント――で決まるのが自然な形です。
 けれど今の米価は、その「納得のプロセス」が社会全体に見えない。
 これを変えるためには、「誰もが見られる場所で値段がつく」=“市場価格の見える化”が大切だと私は思います。

 欧米の主要な農産物(トウモロコシや小麦、大豆など)は、国際的な商品市場で価格がリアルタイムに決まっています。
 農家も業者も消費者も、「今日の相場」を参考に取引をし、計画を立てています。

 今の日本のお米は、そうした透明な指標が存在しません。
 これが「不安定な米価」「調整頼みの仕組み」から抜け出せない理由の一つです。

堂島米穀指数と指数先物の可能性

 そんな中で注目したいのが「堂島米穀指数」――全国の米の取引価格の平均値を指標化したものです。(リンクは取り扱っているSBI証券のページです。とってもわかりやすいです。)
 これをもとに、2024年から大阪堂島取引所で“米の指数先物市場”が本格始動しました。

 「先物取引」という言葉に身構える方も多いと思いますが、これ自体は「将来の米の値段を今決めておく」ための仕組みです。
 農家が「秋に収穫した米を今の値段で売る予約」をしたり、食品メーカーや外食産業が「来年の仕入れ分を今の値段で買う契約」をする――
 これができれば、お互いにリスクを減らし、安定した計画を立てやすくなります。

 さらに大事なのは、この市場の値段や取引量が誰にでもオープンに公表されること。
 「いま、お米はいくらで売れているのか」「どれくらい取引が活発なのか」が毎日数字で見えるようになります。

“見える化”のメリットと、その先にあるもの

 価格が見えることで何が変わるのでしょうか?
 まず、生産者は“根拠のある相場”を参考に来季の作付計画が立てやすくなります。
 消費者や流通業者も「なぜ今高いのか」「どうして下がったのか」が説明しやすくなり、不安や不信が減ります。

 また、政府の備蓄米放出などの判断も、透明な相場情報をもとに“いつ・どれくらい”という根拠を持った政策対応が可能になります。

 加えて、日本の米価が世界的に信頼される指標になれば、将来的には輸出やグローバルな競争力にもつながっていくかもしれません。

「先物取引」って実際どう使うの?――保険としての米先物

そもそも「先物取引」って何?

 「先物取引」と聞くと、「株より危ない」「損する人ばかり」「投機筋のマネーゲーム」……と悪いイメージばかり先に浮かぶ方が多いと思います。実際、私も社会人になるまでは“何か危なそう”としか思っていませんでした。

 でも、先物取引の本質はシンプルです。
 “将来の価格を今、約束する契約”
 それだけのことです。

 たとえば――
 「半年後の10月に、60kgの米を1万5,000円で売る(買う)約束」を今結ぶ。
 こうすることで、将来の価格変動(上がる/下がる)の不安を減らせる。それが先物です。

指数先物と差金決済――「米の現物がいらない」新しい形

 大阪・堂島取引所の「堂島米穀指数」先物は、昔ながらの「米そのものを受け渡し」する現物先物ではありません。
 「指数先物」という、“米の全国平均価格を指数化したもの”を取引します。
 決済は差金決済――つまり、売買した人同士で「値段の差額だけお金をやり取り」する方式です。
 現物の米をトラックで運ぶことも、倉庫に保管する必要もありません。
 投資初心者や実際に米を使う外食産業でも「お金のやり取り」で価格ヘッジができます。

具体的な「リスクヘッジ」の取引例

 たとえば農家Aさん。
 「今年は豊作で秋には米価が暴落しそう」と心配しているとします。
 Aさんは堂島米穀指数先物で「10月限(10月に決済される)」を今の価格で売る契約をします。

 もし本当に秋に相場が暴落して現物米が1万2,000円になってしまったら、
 Aさんは市場で安く売るしかありませんが、
 先物市場では「約束した1万5,000円」と「実際の価格」との差額3,000円×取引量分が利益として支払われます。
 結果、トータルの収入が安定します(現物の損失を先物の利益が埋める)。

 逆に「やっぱり相場は高値安定、1万7,000円で売れた」なら、
 先物で出た損失(差額2,000円×取引量分)は現物の高値売却益で相殺されます。

 外食チェーンのB社も同じです。
 「これ以上米が高騰したら困る」と思ったら、今の先物価格で“買う”契約をしておく。
 値上がりしても差額がもらえ、値下がりしたら“米が安く買えた”ので損はありません。

 つまり、「先物取引」はギャンブルではなく、未来の“家計保険”のような道具です。

なぜ日本では先物アレルギーが強いのか

 とはいえ、日本ではどうしても「先物=危険・悪」という印象が強い。
 その理由は――

  • 昔、悪質な営業による被害が多発し社会問題化した(“買わないと損しますよ”で素人に売りつけた…)。
  • ニュースで「投機マネーが米価をつり上げている」などと一方的に報じられることが多い。
  • 実物を持たず“差額だけやり取りする”=博打のように見えてしまう。

 本来は、米農家や外食産業など“本当に価格リスクに困っている人”のための仕組みです。
 先物に抵抗感があるのは自然ですが、「仕組みを知る」と見方も変わるはずです。

日本の米先物――発展途上から定着へ

 実際、堂島米穀指数を使った先物市場は、まだ出来高も少なく、農家や実需者の参加も限定的です。
 「難しそう」「誰がどうやって使えばいいの?」というハードルが高いのも事実です。

 けれど、昨年から今年にかけての米価高騰・混乱を経て、「価格が見えないと困る」「何らかのリスクヘッジ策が必要だ」と感じた農家さんや流通業者が、徐々に関心を持ち始めています。

 直近の堂島米穀指数チャートを見ると、出来高(売りたい人と買いたい人で交渉成立した分)は日によって大きく上下しており、材料不足の可能性や大口取引にふられている可能性もあります。取組高(売ったり買ったりしたい人はいたが希望価格で取引成立しなかった分)が増えてきているので、トレンドが出てくるかもしれません。まだまだ市場参加者不足ではあります。

 これからは、JAや農水省、流通大手が率先して先物の使い方やメリットを分かりやすく周知し、利用の裾野を広げていくことが大切です。

農地バンクの課題――進まない「集積」の現実

農地バンク制度のしくみと現状

 農地バンク(農地中間管理機構)は、国が都道府県ごとに設置した“公的な農地仲介役”です。
 遊休農地や高齢農家の土地をバンクが預かり、それを大規模農家や新規農業法人にまとめて貸し出す。
 農業の大規模化、効率化、若手・法人の新規参入を後押しするための柱です。

 でもこの「バンク」の活用度は、地域によって本当に温度差があります。
 ある県ではバンバン農地が集まり、若手や法人への貸し出しが進んでいますが、
 別の県ではほとんど“動いていない”、仲介実績が極端に少ない、といった状態もあります。

なぜ進まない? 現場のリアルな課題

  • 所有者不明地問題
     登記や相続が済んでいない、所有者に連絡がつかない農地が増加中。誰の土地か分からないまま、遊休地のまま放置されてしまうケースが後を絶ちません。
  • 借り手不足・条件ミスマッチ
     バンクに農地を預けても、条件が厳しかったり、立地が悪かったりして借り手がつかないことも多いです。「まとめて大区画に」と言っても、集落や地形、利害が絡みあって一筋縄では進みません。
  • 都道府県ごとの温度差
     バンクを積極活用して「農地集積」を推進する県と、「形式的な運営にとどまっている」県の差が大きい。現場職員のマンパワーや熱意の違いも影響しています。
  • 農家の“思い”と現実
     「先祖伝来の土地を手放したくない」「知らない法人に貸したくない」「集落から外れる土地は貸しづらい」――こうした気持ちも集積を妨げる一因です。

課題をクリアしないと新規参入も進まない

 結局、農地バンクがうまく機能しないと――
 ・若手農家や農業法人が「まとまった面積を借りられない」
 ・そもそも“新しい担い手”が現場に根づかない
 ・大区画の効率化やスマート農業の導入も進まない

 その結果、米生産の安定や価格の落ち着きにつながる“現場改革”も進みません。

最後に――主食の未来をみんなで考える

 米の価格は、農家だけ・JAだけ・政府だけの問題ではありません。
 毎日ごはんを食べる私たち全員の“暮らしの土台”です。

 だからこそ、
 ・価格の透明化
 ・見える市場
 ・リスクヘッジできる仕組み
 ・効率的な生産と新しい担い手の応援  

 これらを組み合わせて、「みんなが納得できる米価」「安心して作れる・買える米市場」を目指していくことが必要だと思います。

 どうしても今は直近の高騰した米の価格に関心が行きがちですし、先行きの不安もあるでしょう。また選挙対策で目先のことに気持ちが振り回されるかもしれません。当然のことです。その上で、価格だけでなく、主食である米の未来を私たちが考えていきたいものです。

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