文科省が、6月24日付で就職氷河期世代の社会人を公立学校の教員として積極的に採用する通知を全国の教育委員会向けに出しました。
これは、文科省の独自の施策ではありません。政府の氷河期世代の支援強化に向けた取り組みの一環です。
採用をしやすくするとは、「一次試験の免除や加点措置」を検討するようにということです。最終的な判断は各教育委員会に委ねられているので、実際にはどのようになるかは、現時点では分かりません。
横浜市では、「団塊世代の一斉退職」に備えて、年代別の採用枠を設けて教員採用試験を行っていたことがあります。(今は世代別では採っていませんが、いろいろな枠はあります。社会人経験枠もあります)
現在は特別選考にしても別々に採用枠を設けてはおらず(大学3年生特別推薦以外)、どのようにしていくのかは分かりませんが、「(適正なら)採用できるだけ採用したい」という思いはあるかもしれません。
どのような課題があるでしょうか。
まず、教員免許は有効期限が設けられ、更新講習を受講して手続きをしなければならない時期がありました。「教員免許はもう失効してしまっている」と思う方がいらっしゃると思います。
大丈夫です。すごく変な話ですが、教員をやっていた人は経験値があっても、有効期限中に更新講習を受けないと免許は失効し、同時に職を失っていたのですが、教職経験がないペーパーティーチャーの免許状は「休眠状態」という扱いで、なんとなんの手続きもなく自動的に有効期限のない免許になっているのです。現役の教員からしたら「はぁ?」って思うかもしれませんが、その点に関してはクリアしているので、安心して受験していただければと思います。
次に、氷河期世代が就職活動をしていたときの学校と、今の学校とでは働き方が全然ちがうので、「教員の仕事がしたい」という思いとマッチすることがかなり難しいので、どのようにそこを擦り合わせていくかは慎重にならなければならないと思います。「教える」という教授的なテクニックならば正直すぐに身につくでしょう。上手い下手はあったとしても、教え込む内容をしっかり勉強すれば、教えること自体はできます。職種にもよるでしょうが、話術で「子どもの心をつかむ」というのが得意な人もいると思います。ただ、今の教育活動は「引き出す」ことや子どもの個々の能力・非認知能力などをみとった上で共同的協働的に学ばせていくといった、ちがった専門的なスキルが求められます。大学の現役世代はそういったことも学んできていますし、なんなら自分たちの学校時代に近い文化も感じられると思います。しかし氷河期世代の子どものころの学校とは完全にことなった景色がそこにはあります。
教師にはならなかったけれど、たとえば通信教材会社に就職したなど、教材開発などで教育の仕事に関わり続けている人にとっては、マッチしていきそうです。まったく違う職種に就いていた方は、まず今の学校現場をよくリサーチして熟考した方がよさそうです。インターンのようなことができればよいのですが、前職で働きながらそれを行うのは大変難しいことでしょう。
働き方改革がなかなかうまくいっていない学校現場ですが、現在の学校運営を回しているのは「ど根性就職氷河期世代」である点も、不安材料になると思います。様々な世代を受け止めて、組織全体としてはスクラップ&ビルドを進めて、若い世代が無理なく働いていけるように環境を整えているところですが、なんというか、「やる人がやらないと回らない」という自転車操業の状態も確かにありつつ、一方で氷河期世代はど根性的な働き方が染み付いてしまっているというのもあるんですよね。
着任してみて、同世代が猛烈に学校を回している中で、同じように仕事をすることはできず、でも職場には自分よりも若い子達ばっかりという環境で、メンタルをどのように保っていくかということが気がかりです。同世代がバックアップしていくことが必要に思いますが、同世代にバックアップしてもらうことにプライドが邪魔をするかもしれません。若い世代が(思っていなくても)働きにくくなったなと感じさせてしまっていると思ってしまうかもしれません。
あとは、とにかくカルチャーショックが大きいことでしょう。「え?そんなことも教員の仕事なの?」なんてびっくりするほど雑務が多かったり、「え?本務である担任業務が時間外にしかできないなんてあるの?」とか、「残業代出ないの?」とか。上司と部下という関係がほとんどない横のつながりというのも、大きな違和感を感じることでしょう。
これ以上書くと、応募者がいなくなってしまいそうで心配でもうやめますが、私がこれまで教員をやってきた中で関わった「社会人経験者」の方は、みなさんとってもよい方でした。同僚として仕事の仕方に「おや?」と思うところもありましたが、そんなのはずっと現役でやってきた人でも同じことです。ただ、この仕事の要となる「みとり」と、そこを起点とした支援というのは、苦労されている方が多い印象です。
私は、子どもに愛情を傾けて一生懸命汗をかいてくれる方なら、どの世代でも歓迎です。できれば、「教職教養」だけはしっかりと学んでからきていただけるといいかなと思います。これは就職氷河期世代に限ったことではないのですが、勤め始めてからではどうも遅すぎるようなので。
給与がどうなるかは難しいところですが、(若い世代が反発するかも・・・)今の仕事を辞めて転職をする場合、多少「同世代」の給与に寄せていかないといけないでしょう。生活がかかっていますからね。
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