いじめ防止対策推進法が施行されたのはもう10年以上前の2013年になります。
多くの保護者の方が知らないようですが、 「主観的に心身の苦痛を感じた」場合にいじめが成立すると定義されています。
昔の「いじめは、複数対ひとりの構造」のような考え方は、完全に消えています。1対1でも、そして加害側にいじめる意図があったかどうかは全く関係がありません。
学校は、「いじめられた」と主張した児童生徒のことは必ずいじめ認知をすることになっています。「いじめ」と明言しなくとも「嫌だった」「痛かった」「落ち込んだ」などの表現でも、その児童生徒が心身的な苦痛を感じたと受け止め、「いじめ」として認知します。
極端と思われる方が多い例ですと
- 授業中に練習問題に取り組んでいてなかなか解けずにいる友達に、解き方あるいは解き方のヒントを教えてあげた。でも、その友達は「自力で解決したかった」と感じた場合、いじめが成立します。
- 好きな子に告白をしたけれど、告白相手はその子のことをぜんぜん好きと思っていなかった。「つきあってくださいと言われて怖かった」と感じた場合、いじめが成立します。
学校によっては月のいじめ認知が100件を超すような場合もあります。統計データとして近年いじめの認知件数がものすごい増えてきているのは、「いじめが増えた」のではなく「いじめの発見数が増えた」ことを意味しています。
ちなみに、お互い様の喧嘩でも、それぞれがおたがいの言動に心身的な苦痛を感じていた場合は、いじめの「相互認知」をします。
同じ事象でも、人によって受け止め方や傷つきの度合いは大きくちがいます。 自分の経験などと照らし合わせて「それくらいのこと」などと判断することは、当該児童生徒の苦痛の発見を見逃してしまうことにつながりますし、心のケアができなくなります。
したがって、とにかく全て、まずは認知しようというのが法律の趣旨です。
いじめを認知したら、当該児童生徒の心身が回復するまで、学校の教員はケアを続けます。当該児童生徒が「もう大丈夫」と言ってからも、3ヶ月は見守り定期的に本人に確認をとります。その上で、完全に解消したと思われる状態になり、保護者も「もう大丈夫」と認めたときに、いじめ解消となります。
未然防止ももちろんですが、 内心を人が判断することはできない以上、いじめは必ずあるものとして、早期発見と対応をしていくことが大切というのが、法律施行後の学校のスタンスです。各学校で「いじめ防止基本方針」の策定が義務付けられています。 また保護者にも周知することになっています。
SNSに流れてくる保護者による投稿を見ると 「これっていじめなんじゃないかな」 とか 「学校は被害者にもいじめられる原因があると思っている」 とか いろいろと悩まれたり憤られたりするものがあります。どんなトラブルであれ、お子さんが学校生活上で心身の苦痛を感じたと言っているのであれば、必ず学校へ連絡してください。
学校生活場のお子さんの心身の苦痛を解消できるのは、保護者の方とお子さんが通われている学校にしかできません。 学校の対応に疑義がある場合は、「いじめ防止基本方針」を確認したり、それに照らし合わせた対応になっているか訴えたりしてください。親がささいなことと思っていても、お子さんはひどく傷ついていることもありますし、またその逆もあります。
またいじめの定義からすれば、お子さんもいつでも加害側になることがあります。
ひとたび我が子がいじめにあえば、親としては強い憤りを覚えるのは当然です。 相手の子やその保護者のことを断罪したいような気持ちに駆られることもあるかもしれません。
ただ、傷ついているのは子ども当人ですから、お子さんの心身のケアと健やかな成長のために、お子さんの周囲の大人がいつも冷静に支援していくことが大事です。
学校は、この法律に基づいて、安全安心の確保のために支援をしているので 警察や弁護士に求める内容については訴えても仕方ありません。
暴力など刑事事案について訴えがある場合は、警察に被害届を出します。 損害賠償などの訴えがある場合は、弁護士に相談をします。 学校は教育行政機関ですから、そういったことは仲介しませんし、できないということは知っておくとよいと思います。
お子さんのちょっとした「嫌だった」というつぶやきは、もしかしたらお家でお話しするだけで解消するかもしれません。ですが、学校での生活の仕方や心のもちようを完全にコントロールできるものではありません。 学校のことは、学校でしか解決できないものがほとんどですから、遠慮せず学校に相談していただきたいです。


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