みんなちがってみんないいけど

教育

 みんな大好き、金子みすゞさんの詩・・・のフレーズ「みんなちがって、みんないい」。特に教育の現場ではよく耳にするフレーズです。

 しかしながら、このフレーズがどのように扱われるか、扱っているかについて、教育の場であるからこそ少し立ち止まることも大事かなと感じます。なぜならば、教育者は「教育することが生業」だからです。

 教育者は、学習者に対して何かしらを教え、示すということをなくして成り立たない仕事です。その立場ゆえに、自身のモットーとしているのか、子どもに伝えようとしているのかなどを疑ってみるのはどうでしょうか。一応ことわっておきますが、私は別に金子みすゞ著作保存会ではありませんから、「みんなちがってみんないい」の独自解釈(の中に本志にそぐわない)を、金子みすゞと紐づくようなかたちで使うべきではないというところまでを主張するわけではありません。「みんなちがって、みんないい」は現代の多様性を認める社会においては自然と生まれてくるフレーズでもありますから。ただ、教育者であるならば、このフレーズを金子みすゞさんと紐づけることなく「オリジナル」として語るというのは無理があるし、誤解を生みますし、学習者に語るならば影響を与えるフレーズだからこそ、著者と紐づけて敬意をもって紹介した方がよいとは思っています。

 金子みすゞさんは、教育者ではありません。童謡詩人であり、母でした。『私と小鳥と鈴と』は、何か特定の局面で語る詩というよりは、いつだってその存在が素晴らしいものであるということをうたっているのだと思います。もちろん、着想したときは、世界の何かを目にしたのでしょうけれど。また、人間三者の比べて、「それぞれに個性があって、それぞれによさがある、人と比べなくてよい、あなたはあなたでよいのだ」とうたっているわけではありません。それは今の人間社会の様相からもつべき理念について誰かが適用した「解釈」です。ここには、やや本来の詩とは飛躍があります。金子みすゞさんは、私と他の生き物と物を比べ、相手のよさを表現しながらも自分のよさを語った上で、「鈴と、小鳥と、それから私」と題名とは反転した順で「みんなちがって、みんないい」としめくくっています。私はですけれど、金子みすゞさんは、今教育現場で語られている「みんなちがって、みんないいんですよ」よりももっともっと広い世界観を詩に表していたのだと思います。

 さて、だから安易にこのフレーズを使うな、と主張したいわけではありません。

 金子みすゞさんの眼差しを通して世界を眺めたら、その鮮やかな彩に気付くことができるでしょう。そしてその世界を客観的に見たときに、自身が世界の彩を担っていることに気付くことができるでしょう。

 それ以上でも、それ以下でもない。このフレーズを用いて人に何かを説こうとしているときって、「あなたは、ありのままのあなたでいい」と伝えたいときと、「あなたは、あなたらしくあればよい」と伝えたいときとがあると思うのです。でも立ち止まって考えてみると両者にはちがいがあります。

 前者の場合は「無条件の受容」が目的です。こと教育とは無縁の立ち位置から「あなたは存在しているだけで素晴らしいのだ」と語るときでしょう。例えば生きる希望を失っているほどに自己肯定感が落ちている人に対して使う言葉であったり、自身が教育し尽くして例えば卒業を見送るときに使う言葉であったりするでしょう。人間関係を全て断ち切ってなお、「あなたはあなたでいい」と言えることです。ですが、小学3年生の国語の教科書に載っているのは、私はただただ純粋に「世界の彩を見てごらん」そして「あなたも彩の一つだよ」という本来の詩を楽しむところにあると思います。


 後者の場合は「個性の自覚化」が目的です。教育者は、学習者の長所をしっかりと言葉にしてやる必要があるでしょう。例えば本人が気付けていない長所に気付かせてやる場合もあるでしょうし、逆に本人が短所と捉えているものをリフレーミングしてやる場合もあるでしょう。この場合は、周囲と比べてやることも大事です。同じ分野で1位2位を争うことも、広い世界から見ればどちらも輝いていると言えますし、結果よりも過程に焦点を当てて生き方を称賛することもできます。


 長所と短所って、ときに表裏一体であったりします。「理路整然としていてかつ人に訴える話し方がうまい」と「言葉が小難しくてかつ話が長い」と、どちらとも感じられている人に、何を肯定して何を加えて助言するかなど、現実的な局面ではいろいろと考えてしまうものです。

 いかがでしょう。言葉ひとつとってみても、その使おうとしている言葉が理念なのか方針なのか、指導の文脈なのか支援の文脈なのかによって、意味の為し方も変わってきます。また、個性について語るにあたっては、みとりなのか、本人も自認なのか、あるいは教育者の色眼鏡なのかといったことも立ち止まって考えてみることも大事です。

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