先日ニュース記事になった、『中学1年生250人の半数超、理科の課題で同じ間違い…教諭の違和感の正体は生成AIの「誤答」』について、批判してみようと思います。なお、この中学校の先生個人を抽象するものではありません。
概要
- 中学校の理科で「唾液アミラーゼの働き」について調べる課題を出した。
- 生徒の半数超が同じ文言で解答。
- 教科書・参考書の文言と異なるので、教師がネット検索すると生成AIがキューピーのサイトの情報を参照しているとわかった。
- 教師は、生徒に「でんぷんは、胃では消化されない」ことを説明。これに生徒は納得。
- 教師は、キューピーにX(旧Twitter)で指摘した。
- キューピーは、検討の結果、同社HPの文言を修正した。
批判
なぜ検索結果の最上位を書き写したか
記事には「書き写す」とあるが、課題の提出媒体は紙だったのだろうか。教科書や参考書に載っている情報ではなく、ネットの検索結果を写したのには、生徒なりの理由があったと考えられる。
課題がGIGA端末によるデータ提出だった場合、教科書や参考書を開きながら、情報を手入力するよりも、webサイトからコピペした方が楽であった可能性がある。
また、教科書や参考書が情報にアクセスしづらかった場合、何ページに書いてあるかを探したり、字のサイズが小さかったり、直接的な解答となる情報が載っていなかったりしたかもしれない。その場合は、日常的な情報収集の方法から、ネット検索を利用した可能性がある。
丸写しは論点ではない
こと教育関係の記事では、ネットの情報の場合のみ「コピペ」について騒がれるが、生徒全員が所持している教科書から調べた場合も、同様に「丸写し」になることを忘れてはいけない。そもそも、授業の中で「丸写し」になるような課題を出していたならば、それを問題点にすればよい。しかしながら、国語の学習でなければ、小難しい文章から要約させようとすることはもはやナンセンスである。そんなことを求めるくらいならば、「情報の信用度」を批判する力を身につけさせるような課題を多くしていけばよい。
分かりやすい情報にいかにはやくアクセスできるかは大事な情報活用能力である。
教諭の事後説明にむしろフォーカスすべき
まあ、こちらにフォーカスしたら記事タイトルも変わり、読んでもらえなくなるから書かないのだろうけれど。記事には
男性教諭は、教科書や参考書を確認しながら、でんぷんは口と十二指腸で分解されることを説明すると、生徒たちは「胃では消化されないんだ」と納得した様子だったという。
中学1年生250人の半数超、理科の課題で同じ間違い…教諭の違和感の正体は生成AIの「誤答」(読売新聞オンライン)
とあった。これでは、目に見えないものを科学することを口頭伝達しただけで納得させているようにも聞こえ、教諭への冒涜になりやしないか。また、教諭が説明するだけで生徒が納得するのであれば、そもそもこの課題が不要だったのではないかと、これもまた異なる批判が生まれてきやしないか。さらには、「分解」と「消化」について生徒がどのように区別して納得したのかが分からず、教師の説明が権威的であるように読み取れてしまう。
子どもの情報を鵜呑みにする状況を憂うのであれば、これもまた全く同じ問題、いや、もしかするともっと深刻な「権威的な情報への信用度を盲信する」という問題を露呈している
そもそも生成AIによる誤答ではない
独立したChatGPTのような生成AIによる解答生成ではなく、ブラウザに搭載されたおそらくBingChatやCopilotだったと思われるが、あくまでもweb上の情報からもっとも分かりやすいものを紹介したのであって、これは生成AIによる誤答ではなく、キューピーのサイトに載っていた情報が「誤解を招く表現」だっただけの話である。
生成AIに結びつけて「子どもが生成AIを頼って情報の確かさを確認せずに鵜呑みにしていて危険」という印象だけを与えるという、非常にくだらない恣意的な記事だと私は感じた。
教諭のアクションこそ好事例
教諭が(Xを通すのはよいかは別として)、キューピーに指摘をしたというのは大変素晴らしい。そしてキューピーがそれを受けてHPの文言を修正したというのも素晴らしい。
私がこの中学校教諭だったら、このやりとりをぜひ生徒と一緒に行いたかった。このアクションは、子どもたちに少なくない影響を与えたことと思う。
いかがだったでしょうか。唾液によるでんぷんの分解は、小学校6年生でも学習します。ヨウ素でんぷん反応がなくなる様子を実験で観察し、でんぷんが検出されなくなることにより唾液により分解されたと推論します。中学校の理科で、アミラーゼの働きをどこまで発展させて学習するのかは、自分の中学生の記録をたどってもちょっと分かりません。ただ、目に見えない科学の不確かさは、中学校理科でも非常に興味深い部分であると思います。そういう思いをふくらませる探究的な活動であったらいいなと思います。
教科書に載っている情報やネットに載っている情報を丸写しにするような課題は、どんぐりの背比べでしかありません。「YouTubeやどこかの研究所のサイトなどから、アミラーゼの分解の仕組みをシミュレートした動画を探して理解を試みよ」といった課題の方がよっぽど楽しいと思います。
上述しましたが、そもそも今回の件は生成AIの問題では全くありませんでしたが、ネットの情報は玉石混交ですが、玉もあるわけですし、教科書を鵜呑みにするのももはやどうかと思いますし、情報活用能力についてもっとちがう論点で語るべきだと思います。また生成AI自体がおおよそのファクトチェックの機能を確立していくのも時間の問題だと思われます。いずれにしても、それは現在では全て人間が生み出した情報をもとにしているということを忘れてはいけません。生成AIは現時点では、人間の知識を超えることはできないのですね。
最後に、キューピーのHPにある「一人何役?唾液の働き」のページは、分かりやすくてよいページですよ。生成AIが参照したのもうなずけます。
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